個人的に印象深い問題や題材 1、中和と電離平衡など

化学

ryu.です。
久しぶりに具体的な学習の内容に関して色々と書いていきたいと思います。今回は化学でそこそこ重要な立場を担っている中和滴定と電離平衡に関してです。といってもデカデカと「中和滴定」と書いておいてそこまで中和滴定自体には関係のない話なのですが、化学の問題を解く上で重要な量的関係を考える上でベースとなる部分を凝縮しているとも言える部分であり、そして出題の題材としてもかなり頻出であるのでしっかりとマスターしておく必要があります。基本的には難しくなってくるのは電離平衡や緩衝作用を考える時なので、今回はそちらの方に焦点を絞って書いてみたいと思います。

経緯…東大の過去問

そもそも、今回題材にしようと思った問題である東大2015年度の化学の第1問Ⅱなのですが、鉄緑会の問題集で「難易度:易」と評価されており、いくらなんでもそれは無くねーか!?と思ったからです。二段階滴定や逆滴定などのように、過去にテクニックとして教わったこと(ないし遭遇したこと)があれば問題なく解ける話なのですが、これについては学校の授業などで触れることは無いでしょうしこの時期になって今一度この疑念について検証してみようと思った次第であります。すなわち、この記事は個人的に印象に残った問題紹介の一端を担っているというわけです。

問題;東京大学 2015年 化学 第一問 Ⅱ

弱酸とその塩、または弱塩基とその塩を含む溶液は、少量の強酸や強塩基を加えてもpHがごくわずかしか変化しない。このような作用を緩衝作用と言い、私たちの血液や細胞内のpHを一定に保つという重要な役割を果たしている。ここでは、酢酸水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えたときのpHを求めることにより、緩衝作用を検証しよう。ただし、全ての実験は25℃で行い、溶液の混合による体積変化は無視できるものとする。
酢酸は水溶液中でその一部が電離しており、電離していない分子と電離によって生じたイオンの間に、いかに示す電離平衡が成り立っている。
$$\mathrm{CH_{3}COOH} \rightleftharpoons \mathrm{CH_{3}COO^{-}} + \mathrm{H^{+}}$$
酢酸の電離定数を\(K_a\)とする。また、酢酸水溶液のモル濃度を\(c\)、電離度を\(\alpha\)とすると、\(c\)と\(\alpha\)を用いて、\(K_a=\fbox{e}\)と表される。酢酸の電離は1と比べて十分に小さいので、\(1-\alpha \approx 1\)と近似すると、\(c\)と\(K_a\)を用いて、\(\mathrm{H^{+}}\)のモル濃度は\(\mathrm{H^{+}}=\fbox{f}\)と表される。
まず、溶液A(\(0.10\mathrm{mol}\cdot\mathrm{L^{-1}}\)の酢酸水溶液)をビーカーにとり、pHを測定した。次に、\(1000\mathrm{mL}\)の溶液Aに、\(500\mathrm{mL}\)の溶液B(\(0.10\mathrm{mol}\cdot\mathrm{L^{-1}}\)の水酸化ナトリウム水溶液)を加えた。この混合溶液をCとし、pHを測定した。このとき、酢酸ナトリウムは、以下のように、ほぼ完全に電離している。
$$\mathrm{CH_{3}COONa} \longrightarrow \mathrm{CH_{3}COO^{-}} + \mathrm{Na^{+}}$$
次に、\(1500\mathrm{mL}\)の溶液Cに\(10\mathrm{mL}\)の溶液B(\(1.0\mathrm{mol}\cdot\mathrm{L^{-1}}\)の水酸化ナトリウム水溶液)を加え、pHを測定した。その結果、pHに大きな変動はなく、緩衝作用が確認された。
一方、\(1000\mathrm{mL}\)の溶液Aに、\(1000\mathrm{mL}\)の溶液Bを加えて中和反応を行った。このとき、溶液は中性にはならず、塩基性を示した。これは、以下に示すように、酢酸イオンの一部と水が反応して\(\mathrm{OH^{-}}\)が生じるためである。
$$\mathrm{CH_{3}COO^{-}} + \mathrm{H_2 O} \rightleftharpoons \mathrm{CH_{3}COOH} + \mathrm{OH^{-}}$$
問 カ 空欄\(\fbox{e}\)、\(\fbox{f}\)に入る適切な式を記せ。
キ 下線部①に関して、溶液AのpHを有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も記せ。ただし、25℃における酢酸の電離定数を\(K_a =2.7\times 10^{-5}\mathrm{mol}\cdot\mathrm{L^{-1}}\)とする。
ク 下線部①に関して、溶液CのpHを有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も記せ。
ケ 下線部①に関して、このときのpHを有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も記せ。
コ 下線部①に関して、このときのpHを有効数字2桁で答えよ。答えに至る過程も記せ。ただし、水と反応して生成する酢酸の量は酢酸イオンの量と比べて、きわめて少ないものとする。また、水のイオン積を\(K_\mathrm{w} =1.0 \times 10^{-14}\mathrm{mol^2}\cdot\mathrm{L^{-2}}\)とする。

問題が長い!!!東大はいつもこう!!

ここまで打ち込むのにまずは一苦労でしたよ。そして一応直近に解き直してみた解答が下になります。受験からもう半年以上離れているので、流石に問題の具体的な感じについては覚えていませんでしたが、ひとまず自力で解き切ることはできました。しかし、受験直前期にこの問題をやった時にはあまりにも出来なかったためにかなり理解に時間を割いていたのを思い出して、かなああああああああり嫌な気分になりました。

それではそれぞれの問題について思った点です。まずは最初の空欄補充の問題と弱酸のpHについての問題ですが、これについては教科書でそのまま出てくるような問題なので、わかっていれば問題ないでしょう。特筆すべきとして言うべき点は電離度と電離定数の理屈についてしっかりとわかっているかどうかがこの系列の問題をきっちり理解出来るかどうかの境になると思います。この分野については理解して慣れるまでが大変だと思うので、一度習得したと思ってもしつこく頭に入れていきましょう。
そしてここからは緩衝作用に関する問題です。そもそも緩衝液というのは問題文中でも触れられている通り、弱酸とその弱酸由来の陰イオンとの(等量)混合液のことであり、これによって多少量の酸や塩基が加わったとしてもそれらのイオンが反応して目に見えてのpHの変動を抑えてくれる作用(緩衝作用)が発生します。要は酸や塩基という水溶液にとっての衝撃を和らげるためのものです。
今回の問題については弱酸に強塩基を中和量に対して半分だけ加えることによってその液(この問題で言うならばC)が緩衝液となるわけです。そして問題ですが、混乱しないポイントとしては「反応と平衡移動を分けて考えるとイメージしやすい」と言うことです。もちろん一概にこれが現実世界においてもこの理屈と全く同じように瞬間的に反応が進んでいるわけではないと思いますが。要は、反応中に平衡が移動して〜などと考えるから難しく考えてしまっているだけなのでは?ということになるのでしょうか。少なくとも自分はそうでした(あとはどんな反応が起こるのか分からなくて関係ない加水分解の式とかを引っ張り出して混乱していた、とか)が、変に複雑に考えているのはもしかしたら私だけなのかも、とか少し思っていますが…。最初に反応元のAとBに含まれている酢酸と水酸化ナトリウムの物質量を整理してみるとそれぞれ\(0.10\mathrm{mol}\)、\(0.050\mathrm{mol}\)になりますよね。そうすると、この二つだけを考えてみた時に中和反応をするのは各々から\(0.050\mathrm{mol}\)ずつなので、未反応の酢酸と中和による塩が完全に電離した酢酸イオンの物質量が\(0.050\mathrm{mol}\)で同じくなります。あとはここから平衡の移動を考えてみると解答に書いてある通りの表が作れると思うので、あとは変化量が微小であることから近似と電離定数の定義式を用いてこの時点での水素イオンのモル濃度と電離定数が一致することが判明します。改めて考えてみるとなんか不思議な感じがしませんか?本来溶質や溶媒の量に左右されてきたモル濃度の値が物質ごとに決まっている定数によってのみ決定するということが少し非自明で面白いなと自分は感じました。
そしてこの次がおそらく最難関、とは言ってもこの1歩前を踏むことができたのであればその応用でどうとでもなります。最初に先の問題の平衡までが終わった状態を想定しておき、ここに新たにDの水酸化ナトリウム水溶液を加えると、酢酸の方は\(0.010\mathrm{mol}\)だけが中和反応をしていきます。すると酢酸と酢酸イオンの物質量はそれぞれ\(0.40\mathrm{mol}\)、\(0.060\mathrm{mol}\)となります。あとは前問と同じ議論をするだけであっという間に水素イオンのモル濃度が電離定数の\(\displaystyle\frac{2}{3}\)に相当することが判明します。ここからpHは一撃で求められますね。あれこんなにすんなりいく感じだったっけこの問題…?実際今回解いたときも多少てこずったはずだぞ俺…?
最後はおまけみたいな問題ですね。強塩基が過剰量加えられているので酢酸イオンによる加水分解反応を考慮した電離平衡を同じように考えてあげればいい話になりますので、説明については割愛します。

とはいえここまでの操作にかけていられるのは長くても15分程度といったところでしょうか。求められている操作がなかなか単純であるだけに少しでも止まってしまうとタイムオーバーは必至ですし、教科書においてもかなり高度な内容として位置付けられていることから、まずこれ自体の理解に相当のリソースを割いている人が多いのではないでしょうか。ですが、この問題のように物質の量的関係に着目して問題を解くというのは化学の難問を解く上では当たり前ながら非常に大事になってくることになりますので、おそらく次に酸化還元反応ベースの問題を紹介するタイミングが来ると思いますが、そこや各々問題演習に励んでいる中でもその片鱗を感じ取れればいいかなと思います。

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